獣医師コラム
「細菌性膀胱炎」
犬と猫の細菌性膀胱炎は、排尿障害、頻尿、血尿、悪臭を伴う混濁尿など、臨床徴候が出やすく、診察において非常によく出合う疾患のひとつです。細菌性膀胱炎に対して獣医学領域では2019年に「犬・猫の細菌性尿路感染症の診断管理に関するISCAIDガイドライン」が報告されています。今回はこのガイドラインを中心にお話ししようと思います。
【細菌性膀胱炎】
ガイドラインでは以下の散発性細菌性膀胱炎と再発性膀胱炎に分類されます。
●散発性:健康な去勢雄、雌において発症し、尿路の解剖学的、機能的異常や併発疾患のない動物の細菌性膀胱炎。過去12カ月に細菌性膀胱炎もしくはその疑いが3回未満。
●再発性:過去12カ月以内に細菌性膀胱炎が3回以上もしくは過去3か月以内に散発性膀胱炎が1回再発。
【検査】
細菌性膀胱炎の診断には臨床徴候の聞き取りに加えて、尿検査が必要です。尿検査では白血球や赤血球、菌体が検出されることが一般的です。
再発性膀胱炎の場合は膀胱穿刺にて尿を採取し、細菌培養同定検査を実施すべきとされています。
【治療】
細菌性膀胱炎の治療の中心は抗菌薬です。散発性膀胱炎の抗菌薬の推奨治療期間は以前のガイドラインでは7~10日でしたが、犬においてより短期間の治療の有効性を示す報告がある為、現在のガイドラインでは3~5日間とされています。
抗菌薬療法が奏功している場合は通常2日以内に臨床症状の改善が認められます。臨床的に反応が乏しい場合には抗菌薬の変更をします。
再発性膀胱炎に対しては、以前のガイドラインにおいて長期間(4週間)の抗菌薬投与を推奨していましたが、再発性膀胱炎の症状は幅広いため治療期間を一概に設定することは困難とされました。再発と治療を繰り返している背景から、耐性菌の関与も疑われるためどのような細菌が存在しているのか、どのような抗菌薬が効くのか、検査が必須となります。それに合わせて抗菌薬の投与を行っていきます。やみくもな抗菌薬療法を行うことなく、治療中及び治療終了後も、治療の有効性を確認しながら経過を見ていきます。
これに加えて、高齢の未去勢雄は前立腺肥大による前立腺疾患のリスクが高い為、下部泌尿器徴候がみられた場合は前立腺についても評価する必要があります。
寒くて飲水量も減り、膀胱炎が増えるこの季節。大切な家族であるわんちゃん、ねこちゃんが泌尿器症状で悩まれているときには、すぐにご相談ください。
獣医師 千葉能子