獣医師コラム
【ガリプラント】
ガリプラントは2017年に米国で、2019年に欧州で販売が開始され、関節疾患(骨関節炎など)に悩む多くのワンちゃんに使用されています。日本では2020年4月より動物用医薬品としての承認が下りたことから、今回この場を借りて紹介したいと思います。
骨関節炎(Osteoarthritis:OA)はワンちゃんの関節疾患の中で最も発症頻度が高く、罹患率は約25%とされています。
若いワンちゃんにも発症する進行性かつ完治が難しい病気とされています。OAの原因として、成長期の骨関節の異形成、関節に関連した骨折、骨軟骨症などの関節表面に生じる病態など、比較的若い段階で生じた関節の異常が発端となる場合、あるいは経年齢性や肥満などの慢性的な関節への過荷重による軟骨変形が考えられます。
ガリプラント錠(有効成分グラピプラント)は、EP4拮抗薬で、プロスタグランジンE2(PGE2)受容体の1つであるEP4を選択的に阻害することにより消炎鎮痛効果を発現します。EP4は感覚神経のPGE2の誘発性感作、PGE2誘発性の痛覚並びに
炎症に関連する重要な受容体です。従来の消炎鎮痛剤(NSAIDsなど)ではアラキドン酸カスケードのシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、PGE2などのプロスタノイドの合成を阻害することでPGE2が介在する炎症および疼痛を抑制しましたが、グラピプラントはさらに下流に存在する4つのPGE2受容体のうち炎症および疼痛に関わるEP4を選択的に阻害します。
このような作用機序により、EP4以外のプロスタノイドが維持しているその他の作用を阻害することなく炎症および疼痛を緩和します。
ガリプラント(EP4受容体阻害薬)によってNSAIDs(COX阻害剤)の副作用である胃腸粘膜の保護、腎機能、肝機能、血小板凝固機能に支障をきたすことなく、ワンちゃんの炎症および疼痛を抑えることが可能になります。また通常用量の約15倍量を9ヶ月間投与した際の安全性も確認されていることから、安全性の高いお薬とされています。
獣医師 中田 智裕