獣医師コラム
【猫の鼻腔内リンパ腫】
はじめに
猫の鼻腔内リンパ腫は、猫の鼻腔内腫瘍の中で最も一般的なタイプ(26~49%)であり、特に中高齢の猫に多く見られます。初期症状が風邪やウイルス性鼻炎と似ているため、診断が遅れることがあります。本稿では、最新の研究に基づき、鼻腔内リンパ腫の診断、治療法、予後について解説します。
病態と症状
鼻腔内リンパ腫は、鼻腔内のリンパ組織に発生する悪性腫瘍で、鼻腔限定病変がほとんどであり、鼻咽頭病変が10~15%、鼻腔と鼻咽頭の両方は8~18%とされています。また、頭蓋内のリンパ腫をはじめ全身のリンパ腫がみられることもあるが13~16%にとどまる。主な症状には、くしゃみ、鼻水、鼻血、呼吸困難、顔面の腫れや変形、目やにや流涙、食欲不振や体重減少などがあります。腫瘍が頭蓋内に浸潤すると、痙攣などの神経症状が現れることもあります。
また、診断時に腎臓への遠隔転移が認められることがまれにあります。
FeLV(猫白血病ウイルス)感染との関連性は低いとされています。
診断とステージ分類
診断には、以下の検査が行われます。
・血液検査:併発疾患の評価
・画像診断(レントゲン、CT、MRI):腫瘍の広がりや転移の評価
・病理組織検査:腫瘍の確定診断
血液検査では鼻腔内リンパ腫における特異的な所見はありません。症状に応じたその他の疾患の評価に用います。(SAAの上昇は認めないことがあります。) 画像検査においてはCTが最も一般的です。MRI検査は炎症所見などにより病変サイズの過大評価がデメリットになりますが頭蓋内浸潤を認める際には有用な検査方法となります。
レントゲン検査は麻酔を必要としないため、行われることが多い検査ですが、病変が大きい場合や顕著な骨融解がある場合には検出できますが浸潤についての詳細は分かりません。
鼻腔内リンパ腫のステージ分類は以下の通りです。
ステージ 特徴
1 骨融解はなく、片側の鼻道、副鼻腔、前頭洞に限局
2 骨融解はみられるが、皮下・眼窩・粘膜下・鼻咽頭への浸潤なし
3 皮下あるいは眼窩あるいは粘膜下・鼻咽頭への浸潤
4 篩板の骨融解あり
治療法と予後
治療には、主に以下の方法があります。
・放射線治療(RT):局所的な腫瘍に対して有効であり、特にステージIの症例では良好な予後が期待されます。
・化学療法(CT):リンパ腫は抗がん剤に反応しやすく、特にCHOPプロトコル(シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)やCOPプロトコル(シクロフォスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾロン)が用いられます。
・放射線治療と化学療法の併用(RT+CT):最近の研究では、放射線治療と化学療法を併用することで、進行のない生存期間(PFS)や全生存期間(OS)が延長されることが示されています。
治療を行った場合の平均余命は、治療法やステージによって異なりますが、放射線治療と化学療法を併用した場合、中央値で約31.4カ月の生存期間が報告されています。 しかし、腎転移が認められる場合や治療反応に乏しい場合、放射線治療後に腎転移が生じる場合などがあり、数年間の生存が見込める場合もあれば数か月でなくなってしまうこともあります。
飼い主様へのアドバイス
鼻腔内リンパ腫は早期発見が重要です。くしゃみや鼻水が長引く場合は、早めに動物病院を受診しましょう。また、喫煙が猫の健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、室内での喫煙は控えることをおすすめします。
参考文献
1. Nakazawa M, Tomiyasu H, Suzuki K, et al. (2021). Efficacy of chemotherapy and palliative hypofractionated radiotherapy for cats with nasal lymphoma. Journal of Veterinary Medical Science, 83(3), 456–460.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33473067
2. Haney SM, et al. (2009). Survival analysis of 97 cats with nasal lymphoma: a multi-institutional retrospective study (1986–2006). Journal of Veterinary Internal Medicine, 23(2), 287–294.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19143934
3. Reczynska AI, et al. (2022). Outcome of stereotactic body radiation for treatment of nasal and nasopharyngeal lymphoma in 32 cats. Journal of Veterinary Internal Medicine, 36(2), 535–543.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35188694
4. Cunha SCDS, et al. (2018). Treatment of two cats with advanced nasal lymphoma with orthovoltage radiation therapy and systemic chemotherapy. Acta Scientiae Veterinariae, 46, 1–6.
https://www.redalyc.org/articulo.oa?id=289055822019
5. Vernau W, et al. (2007). Immunophenotypic and molecular characterization of nasal lymphoma in cats: 30 cases (1988–2000). Journal of the American Veterinary Medical Association, 230(5), 731–738.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17331086
6. Stieger-Vanegas SM, et al. (2007). Computed tomographic imaging of feline nasal lymphoma. Veterinary Radiology & Ultrasound, 48(6), 480–484.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18199071
Tomiyasu H, et al. (2022). Combined hypofractionated radiotherapy and chemotherapy versus hypofractionated radiotherapy alone for cats with localized sinonasal lymphoma. Journal of the American Animal Hospital Association, 58(5), 1–8.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36049238
相原亮太