獣医師コラム
【猫の皮膚糸状菌症】
皮膚糸状菌症とは、糸状菌というカビの一種が皮膚に感染する病気です。糸状菌は皮膚や毛、爪などの成分であるケラチンを栄養とするため、これらの組織に侵入し増殖します。もともとは土壌中で動物の死骸などを分解する役割を果たしていた糸状菌が、動物に感染するようになったと考えられています。犬や猫を含む様々な動物に加え、人にも感染する人獣共通感染症です。
国内においては、犬への感染の約70%がMicrosporum canis(M. canis)、約20%が通常土壌中に生息するM. gypseum、約10%がTrichophyton mentagrophytesであるといわれています。一方、猫への感染は約90%以上がM. canisです。感染動物や汚染された土壌との接触により直接感染したり、汚染物を介して間接的に感染したりします。若齢や、多頭飼育、免疫が抑制された状態の場合に感染することが多いです。
症状は、はじめに皮膚の赤みや毛包炎(毛穴のブツブツ)が出てきて、次第に赤みや脱毛が円形に広がりリングワームと呼ばれる特徴的な病変が形成されます。痒みは炎症の程度により様々です。一方、毛のみに糸状菌が付いたまま無症状で感染源となることもあります。
診断のための検査としては、院内では病変部の毛やフケを顕微鏡で観察して糸状菌がいないか確認したり、ウッド灯検査をしたりします。ウッド灯検査とは、ウッド灯と呼ばれるライトを当てることで犬や猫の主な原因菌であるM. canisが緑色の蛍光を発するのを利用した検査です。M. canis以外の菌はウッド灯を当てても発光しません。また、外注検査の真菌培養検査を行うことでより正確に診断することができます。
治療は、抗真菌薬を含む飲み薬やシャンプー、外用薬などを用います。また、毛刈りすることで感染した毛が環境中に飛び散るのを防ぐことがあります。感染が認められた場合には、飼育環境中の毛やフケを徹底的に除去し、消毒をすることが重要です。人や他の動物にも感染する恐れがあるため、感染動物を触ったあとはよく手を洗い、多頭飼育であれば感染している動物と他の動物を隔離しましょう。
獣医師 原祐菜