獣医師コラム
先日、アメリカのボストンにて犬の全股関節置換術のトレーニングを受けてきました。今回KYON社主催の日本人向けウェットラボが初めて行われ、日本から私を含めて12名の獣医師が参加しました。
全股関節置換術とは、股関節形成不全や股関節脱臼、大腿骨頭壊死症などで股関節の痛みが生じてしまう犬の股関節を、人工股関節に交換するという手術です。欧米では大型犬が多いため股関節形成不全の犬も多いので、盛んに行われている手術です。股関節の根治的な治療法としては最も優れた治療法で、6ヶ月齢以上の全年齢で行うことができます。
全股関節置換術は使用する人工関節の固定法の違いにより二つの方法に分けられます。一つは人工関節を生体の骨に骨セメントで固定する方法(セメント法)で、欠点としては、人工関節に不具合が生じた際、骨セメントの除去が困難な点です。もう一つの方法は骨セメントを用いずに固定する方法(セメントレス法)です。
今回のトレーニングでは、セメントレス法のZurich Cementless Total Hip Prosthesisというチタン製の人工関節を用いて行いました。この人工関節システムはスイス・チューリッヒ大学で開発され、日本国内で唯一、薬事承認を得ているKYON社製の人工関節システムです。そして、この人工関節システムではセメントを用いていないので、人工関節の取り替えや除去する必要が生じた場合、他の方法よりも容易に行うことができます。さらに、インターロッキング形式によりスクリューを用いて人工関節が大腿骨に固定されるので、加重に対する支持と回転力に対する支持の両方が得られます。これに対し他社セメントレスの人工関節システムは、人工関節と大腿骨の固定がプレスフィットのみによるものなので、回転に対する支持が弱く人工関節の沈下や骨折が起こりやすくなります。このように多くのメリットがあるため、当院ではKYON社製 Zurich Cementless Total Hip Prosthesisを導入しました。
しかし、器材を導入しても、全股関節置換術はどこでも行える手術ではありません。陽圧環境のクリーンルーム手術室を備えた手術室環境、外科用X線撮影装置(Cアーム)などの医療設備、そしてトレーニングを受け技術を習熟した執刀医が必要です。当院ではこれら全ての環境と設備を整えて、数回にわたり国内研修や海外研修受けて、 ようやく全股関節置換術が行えるようになりました。

病院長 大川雄一郎