獣医師コラム
ネコの甲状腺機能亢進症について
ネコの甲状腺機能亢進症という疾患についてご存じでしょうか。その名の通りネコにおいて甲状腺というホルモンの分泌をつかさどる器官が働きすぎてしまう病気のことです。この疾患は、1979年に最初の報告があり、歴史の浅い疾患です。(Peterson ME, et al. Am Coll Vet Intern Med. 1979.) 人の甲状腺機能亢進症は1913年に二つの種類に分類されています。バセドウ病とPlummer病です。日本人においてはバセドウ病が99%を占め聞きなじみも多いかと思います。バセドウ病はB細胞性の自己免疫疾患であり、甲状腺の濾胞細胞の増殖と機能亢進を誘発するものです。もう一つのPlummer病は甲状腺に機能性結節を形成し緩徐な増大を示します。こちらは日本人の間では1%程度になりますがネコの甲状腺機能亢進症はこちらに類似します。
ネコの甲状腺機能亢進症は高齢のネコでは最もありふれた内分泌疾患であり、平均年齢は13歳(4~22歳、8歳以下は<5%)であり性別やネコ種問わず発症します。症状としては診断する数か月前から長いと1年程度前から存在することが多く、削痩98%、多食81%、活動過多76%、頻脈66%、心雑音53%、多飲多尿60%、嘔吐55%、下痢33%という調査結果があります。(Peterson ME, et al. JAVMA. 1983) また、脱毛や被毛粗剛、脂漏症、皮膚の菲薄化などの皮膚の変化が見られる場合もあります。
また、検査上では血液検査においれ軽度の赤血球の増加39%、血清化学検査においてALTの上昇85%、ALPの上昇62%、尿検査において尿比重が>1.035 63% 等が見られます。
中でも血清化学検査におけるALT、ALPの上昇は通常はどちらも<500 IU/mlを示します。また、肝機能検査において食前食後におけるTBAという値が正常値であり、絶食時のNH3が高値をしますことがあります。これは過剰な甲状腺ホルモンの暴露によって肝酵素の上昇がみられた結果となります。
診断は院内の血液検査にて行います。治療としては内科療法と外科療法があります。内科治療としては甲状腺機能亢進症に適した療法食を用いた食事療法、抗甲状腺薬を用いた治療法があります。食事療法の注意点としては徹底した食事管理が求められます。療法食以外のものを少しでも食べると効果がないといわれています。抗甲状腺薬での治療によって甲状腺機能亢進症が改善し、慢性腎臓病が見られない場合、外科的に切除する治療もあります。
高齢のネコでは慢性の腎臓病を抱えているケースも少なくありません。甲状腺機能亢進症は腎臓への血流量が増えるため腎不全があった場合、その症状が改善されていることがあります。甲状腺機能亢進症が緩解していくうちに慢性腎臓病が現れてくることがあります。甲状腺機能亢進症はしっかりと治療できれば生存期間中央値は5.3年とされています。ただ、慢性腎臓病を併発していた場合その限りではありません。
健康診断の血液検査においてオプションとして甲状腺ホルモンの値も測定することができますので気になる方はお声がけください。
相原亮太