獣医師コラム
【犬の疥癬症】
犬の疥癬症は犬疥癬虫(イヌヒゼンダニ)が皮膚に寄生して起こる皮膚の感染症で、人にもうつる人獣共通感染症です。犬の疥癬症には通常疥癬(アレルギー疾患)と角化型疥癬(感染症)の2つの病態があります。疥癬症の特徴としては昼夜問わず、診察中や散歩中に著しい痒みが認められることです。
通常疥癬は耳介辺縁、肘、踵に鱗屑(ふけ)、脱毛や紅斑(皮膚が赤くなること)が皮膚病変の主体として認められます。角化型疥癬は通常疥癬とほとんど同じ位置に病変が認められ、重厚な鱗屑が主な皮膚病変として認められます。
疥癬症は皮膚病変、病歴を重視した上で診断を確定するために皮膚掻爬検査を実施します。皮膚掻爬検査とはメスの刃を用いて皮膚を広く浅く掻爬して鱗屑を採取して、スライドガラスの上に採取した鱗屑をのせ顕微鏡で寄生体を確認する検査です。疥癬以外にも皮膚糸状菌症などの感染症の診断の手助けをします。顕微鏡で通常疥癬は少数の疥癬中が認められるのに対して、角化型疥癬では多数の疥癬虫が認められます。
疥癬症の治療は駆虫薬が有効です。ネクスガード、ブラベクトなどの駆虫薬が犬疥癬虫に有効と報告されています。犬疥癬症は重度な痒みを生じる疾患なので、痒みの管理としてアポキル(痒み止め)を併用することもあります。疥癬症の治療を開始する際には、同居の犬を全て治療する必要があります。疥癬虫が感染しているにも関わらず、痒みなどの臨床像が見られないこともあるので、臨床像の有無に関わらず治療は必須となります。
犬疥癬の予後は良好であり、治療することにより重度な痒みや皮膚病変は消失します。最後に飼い主様自身にも痒みが生じることがある病気なので、重度な皮膚病変や痒みが自分自身にも生じる場合には人の皮膚科に受診することを勧めます。
獣医師 長崎健人