前十字靭帯には脛骨（下腿骨）の前方へのすべりを抑制する働きがあり、これが断裂すると、脛骨が前方にすべり、膝関節が不安定になります。 従来の前十字靭帯断裂の手術では、靭帯の機能的な欠損に対して、ワイヤーや他の靭帯などで補おうと試みますが、ＴＰＬＯでは靭帯の機能的欠損に対して、膝関節の力学的構造を変化させることで、膝関節の安定をもたらすことができます

上が術前で下が術後のレントゲン画像です。脛骨近位に放射状の骨切りを行い、骨片を回転させることによって、脛骨高平部角（Tibial plateau angle: TPA）を減少させます。骨切りした骨はLCPシステムで固定します。TPAの減少によって、歩行時に発生する脛骨の前方変移が制限され膝関節が安定します。

膝蓋骨内方脱臼の重症度は、下記の４段階に分類されていますが、それは触診で判定することができます。
グレード1: 膝蓋骨は手で押すと脱臼するが、手を離せば正常位に戻る。
グレード2: 膝蓋骨は膝を屈曲するか手で押せば脱臼し、膝を伸展するか手で押せば整復する。
グレード3: 膝蓋骨は常に脱臼したままで、手で押せば整復が可能で、手を離せば容易に再脱臼する。
グレード4: 膝蓋骨は常に脱臼したままで、手で押しても整復できない。

手術の適応は、グレード、症状、年齢や体重などによって判断されます。
手術は十分な知識と技術を習得した獣医師が行わないと、再発や外方脱臼など手術の合併症も起こり得ます。また、グレード4の場合、脛骨粗面転移や大腿骨骨切矯正などの骨切術が必要になるので、さらに難易度の高い手術になります。

左の画像は術前のレントゲン画像です。膝蓋骨（緑色の楕円）が大腿骨よりもだいぶ内側に変移しています。また大腿骨が顕著に変形しています。この症例は膝蓋骨内方脱臼グレード４で左後肢を全く使うことができていません。 右の画像は術後のレントゲン画像です。大腿骨矯正骨切り術と脛骨粗面転移術、滑車造溝術、筋肉・支帯・関節包の解放と再建術を同時に行いました。
大腿骨が真っ直ぐになり、膝蓋骨（緑色の楕円）が正しい位置に戻っています。症例は術後間も無く、肢を着くようになりました。